「女怪」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿014

一番の味わいどころは金田一耕助の恋愛と失恋

「女怪」(横溝正史)(「悪魔の降誕祭」)
 角川文庫

「悪魔の降誕祭」角川文庫
「悪魔の降誕祭」昭和版表紙

作家の「私」とともに
温泉宿で静養していた探偵・
金田一耕助は、
そこで最近墓荒らしが
相次いでいることを聞く。
墓場の近くには噂の修験者・
跡部の修験場があった。
「私」と金田一はその跡部が
墓場から何かを持ち出すところに
遭遇する…。

横溝正史
金田一耕助シリーズの一篇です。
短篇ながら、横溝ファン、
金田一ファンは見逃すことのできない
作品となっています。なぜか?
そこには金田一の恋愛と失恋が
描かれているからです。

【事件簿File-014「女怪」】
〔事件発生〕
昭和25年(東京・銀座、静岡・伊豆)
〔依頼人〕
持田虹子
…金田一に恋人・賀川春樹の捜索を
 依頼する。バー「虹子の店」のマダム。
 金田一が恋する女性。
〔捜査関係者〕
登場せず
※特に事件として扱われず
〔事件関係者〕
持田恭平
…脳溢血で死亡した虹子の夫。
 持田電機社長。
跡部通泰
…「狸穴の行者」と名乗る、
 話題の祈祷師。
賀川春樹
…虹子の恋人。貿易商。元海軍中佐。
 行方不明となる。
おすわ
…宿屋「柏木」の女将的存在。
「私」(先生)
…語り手。金田一耕助の記録係となる
 小説家(=横溝正史)。

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本作品の味わいどころ①
金田一の恋愛と失恋

上に記したとおり、
何といっても一番の味わいどころは
金田一耕助の恋愛と失恋が
描かれていることです。
金田一が愛した女性は
バー「虹子の店」のマダム。
彼女の形容として
「ほっそりとして華奢」
「白い、透きとおるような肌」
「強靭な意志と、沈潜した情熱」
といった文言が並んでいます。
これが金田一耕助の
好みの女性像だったのです。

金田一の恋心が描かれるのは、
実は二回目です。
一度目はあの「獄門島」事件です。
エピローグにこんな記述があります。
「昨日耕助は早苗さんにむかって、
 東京へ出る気はないかと誘うてみた。
 この唐突な申し出に、
 早苗さんはびっくりして、
 つぶらな眼をみはったが、
 やがてそのことばのうらにある意味を
 くみとると、しだいに眼を伏せ、
 そして」
と、
その申し出をはっきりと断るのです。
やはり金田一、不器用です。
これが一度目の失恋なら、
今回は二度目ということになります。
ただし、その痛手は
より大きなものとなっています。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。

本作品の味わいどころ②
金田一と作家「私」の交際

もう一つの味わいどころは、
金田一と作家「私」の
交流が描かれていることです。
「私」とはもちろん
横溝自身のことであり、
他の作品にも登場し、
場合によっては「S.Y.先生」などと
表されることもあります。
その交流場面の最も大きいのが
本作品です。
なにしろ本作品では金田一とともに
事件に踏み込んでいるのですから。
他作品では冒頭のみに登場しただけで、
事件本編では
語り手を降りていましたが、
本作品では最後まで
語り手を務めています。

その横溝自身の語りには、
自ら造り上げた金田一の失恋を、
人生の先輩として優しく見守り、
その気持ちに
寄り添おうとしている様子が
しっかりと現れているのです。
そこが味わい深いのです。
架空の人物であるはずの金田一が、
生身の身体を持って
読み手に迫ってくるようです。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。

本作品の味わいどころ③
巧妙な殺人事件

だからといって、事件そのものの
味わいが薄いわけではありません。
医者ですら脳溢血と判断した
殺人事件の真相を、
金田一は見事に解明します。
しかしそれは同時に
自らの恋愛の消滅でもあったのです。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。

ミステリというよりは
人間ドラマといったほうがいいような
味わいです。
金田一シリーズの異色作、
じっくりと堪能してください。

(2018.9.18)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.6.4)

〔「悪魔の降誕祭」収録作品〕
悪魔の降誕祭
女怪
霧の山荘

〔関連記事:「獄門島」〕

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※横溝には「女怪」というタイトルの
 作品がもう一つ存在します。
 内容は一切関連のない
 未完成作品です。
 論創社の「横溝正史探偵小説選Ⅴ」に
 収録されています。

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